不思議書店

店内は静まり返っている。

店に響き渡るのはチクタクと動く時計の針の音だけ。

香はいつもの通りに木製の机で本を読む。

その傍らには先程の本があった。

それを猫が見つめている。

『なぁ、続きはどうなったんだ?』

本を読む香に猫は問いかけた。

香は読んでいた本をしおりをはさんで閉じた。

「続き、気になる?」

うっすらと笑みを浮かべて香は猫に問う。

『お前性格悪いぞ』

むすっとした顔で猫は言う。

「記憶をなくしたのはあの人だけ。
 周りの人間は何が起きたか、あの二人の関係さえ明白に覚えている。
 だから彼女はあのあと『記憶喪失』として周りに心配されたわ。
 だけど、彼女は何も覚えていない。
 彼のことは何一つ。
 幸せだったことすら覚えていないわ」

猫は軽くため息をつく。

『人間はそんなことが幸せにつながるのか?
 だとしたらとってもおめでたいな・・』

「よかったのかしらね、あの人があの本の中で話を書いているとき、
 そばにはあの人の夫がずっと心配そうにみまもってた」

『ほぉ、幽霊ってやつか』

「幽霊のその人は悲しそうな目をしていたけど、最後に私に微笑んで消えていった」

香は無表情で天井を見上げた。

『人間ってのはホント面倒なイキモノだな・・・・』