不思議書店

「この店は『不思議書店』、ご覧の通り本屋です。
 但し、お気づきの通り、この店の本には題名も作者名もありません。
 そしてこの店は『呼ばれた者』だけが来れる場所」

『ニャー』と黒い猫が一声鳴いた。
女性と少女は向かい合わせで座っている。

「わ・・私は誰に呼ばれたの・・・?」

女性は苦笑を浮かべながら何かにおびえるようにきいた。

「それはこの本たちのどこかにある、あなたの本に呼ばれてよ」

にっこりと微笑む少女に女性の不安は更に募った。

ナゼ自分がここに来てしまったのか・・・

「ここに来る人々には、困りごとや消してしまいたい記憶、
 どうしても知りたいこと、思い出したいけど思い出せないことなど、さまざまな悩みがある。
 本たちは自分たちの持ち主が自分たちを必要としていると判断するとここに招く。
 だから、アナタも何かを抱えてここに来たのでしょ?」

まっすぐに少女の目は女性を見つめていた。

女性は手に力が入る。

「遅くなりましたが、私の名前は『香』。アナタの名前は?」

問いかけられてビクッと肩が震える。

「わ、私の名前は・・・笹川祥子(ささがわしょうこ)。
 わ、私、特に今悩みなんて無いわ!」

彼女は名前の後、突如叫んだ。

彼女の声のあと、店内はすぐに静まりを取り戻す。

「落ち着きなさい」

「・・・・」

暫しの沈黙が二人に訪れた。

香はまっすぐに祥子を見つめる。

祥子は下を向いたまま、両腕で体を抱いていた。

口を最初に開いたのは祥子だった。

「私・・・恐いの・・忘れたいのよ・・」

「その願い、アナタの本がかなえてくれるわ。
 アナタならその本が何処にあるかわかるはずよ」

祥子は香のその言葉に恐る恐るあたりを見渡した。

すると、自然と引かれる方向があった。

不思議な感覚だけど気になる。

気づけば祥子はその方向に歩き出していた。