THE CANCEL



――――


「ヒロ! ヒロ、起きて!!」


只今、爆睡中の嘉陽
授業中にも関わらず、堂々と机に突っ伏して眠っている


「起きてよぉ、先生が来るよッ!?」

そんな嘉陽を小声で必死に起こそうとしているのは、親友の笹倉 小町(ササクラ コマチ)


「……えー、ではここ、相川さん
……相川さん?」


英語教諭の山川 尚志(ヤマカワ ヒサシ)は、コンコンと机を叩くが全く反応がない


(あ゙ーッもう!! ヒロのばかぁ!!)


この英語教諭、生徒指導も受けもっており、何かと生徒に厳しい

成績を下げられるであろうことを危惧した小町は、親友として嘉陽を必死に起こそうとしたのだが、その努力も無駄に終わった


「私の授業で寝るとは……困ったもんですね……

そこ、バケツに水を汲んできなさい」


眼鏡を中指でクイッと上げ、ドアの側に座っている男子に顎で指示する

指された生徒は心底嫌そうな顔をするが、山川の無言の圧力にしぶしぶ水を汲みに行った



(え……なんか嫌な予感がするんだけど……)



山川の奇妙な言動に、小町は目を細めジト……と睨む

少しして、バケツに半分程水を入れた生徒が戻り、山川に手渡す


皆気になるのか、チラチラと後ろを振り返ったりしている


「これで起きますかね…」


(――ッ! まさか――)


「先生! それはちょ」




バシャッ




あろうことか、バケツの水を嘉陽にぶっかけたのだ



「――……あ?」



今はまだ五月
さすがに冷たかったのか、ようやく嘉陽は起きた


「ようやく起きましたか
36ページの3行目、訳しなさい 」


嘉陽は状況が把握出来ないのか、
バケツを見て、
山川を見て、
バケツを見て……を繰り返していた

そしてようやく納得出来たのか、「へぇ……」と呟き顔を上げる


「早く答えなさい」

嘉陽の反応が気に入らなかったのか、少し声を荒げた












「先生」




嘉陽の静かな声にシンとなる