手からバケツが滑り落ちる
体に力が入らない
時間が、止まったかのように思えた
ソレはゆっくり、落ちていく
自分の体が、他人のモノのように重い
――呼吸って、どうやってするんだっけ……?
あんなによく通る声が、もう聞こえない
周りの音も耳に入らない
『化け物じみてるわ』
「――ッ!」
ガシャンッ
バケツが地に着くと同時に走り出した
もう、何も聞きたくなかった
道場を裸足で飛び出す
――何処ヘ行ク?
(……知らない)
――何故逃ゲル
(……)
――アノ女ガ言ッテイタノハ、事実ダロウ……?
(……うるさい……)
――イツマデ逃ゲル気
(うるさい、うるさいうるさいッ!!)
ソンナノ、言ワレナクタッテ分カッテルカラ……
