THE CANCEL



ガチャ


「……」

『ヒーローッ!』


勢いよく耳に聞こえてきたのは小町の声だった


『あれ、いないのかなぁ……』

「チィちゃん」

『なんだ、いんじゃん!
もー返事くらいしろよー』


ようやく聞こえた声に軽く笑いながら言う

小町は見た目は純日本人の整った顔をしており、いかにも“お嬢様”といった雰囲気を醸し出しているが、実際は口も悪く喧嘩好きという性格で、容姿だけで判断した者の期待を見事に裏切る強者(ツワモノ)だ
更にいうと、嘉陽と同じ道場に通っており、腕も中々だ


「ちょっと待ってて」


(そんなトコがいいんだけどね)



両親が殺されたあの時も、ただ黙って一緒にいてくれた
嘉陽にとっては掛け替えのない存在だった


色素の薄い、肩ほどまである髪を上の方の位置で結いながら、玄関まで行き扉を開ける



「ヒロ、あの後大丈夫だった?」


(あの後って……どの後だろ)


言葉の意図が読み取れないのか、首を傾げる嘉陽

それを見て溜め息をつく


「ヒロのバカチン!
あの山川ってクソジジイに水をぶっかけられた後しかないでしょ!」

「山川先生、まだお爺さんじゃないよ……?」

「そこかいッ! つーか、“先生”とか必要ない単語だよ
ヒロにあんな事してさぁ……
私キレちゃって、少し暴れたら校長に呼び出されちゃった」


語尾に星が付いていそうだが、小町の発言でだいぶ迫力は増している
実際、目が笑っていない


(え゙、暴れたって……それはヤバイよ、チィちゃん!!
……あ、でもウチの為に怒ってくれたんだ……
なんか嬉しいな……)


嘉陽も嘉陽でいらんことを考えている

……無表情のままだが