悟さんは実家を離れて二つ隣の市のアパートに住んでいるそうだ。
 今日は仕事終わりにさっきのコンビニの近所にある実家まで寄って、それから帰るついでにコンビニに入ったらしい。悟さんは高校を卒業してから大学へは行かず、市外の企業に就職したためアパート暮らしなのだという。
 「高速乗るから、シートベルトを締めましょう」
 運転しながら悟さんが父親のように言った。
 「はい」
 私も娘のように素直に従う。
 もう空は明るくなり始めてきていた。
 なんだか瞼が重くて、自然にあくびがでてしまった。
 「眠い?」
 「えっ」
 見られてた…?
 ショックだった。私、絶対変な顔してた。内心落ち込む。
 私に続いて、悟さんもひとつ呑気なあくびをした。
 「実は俺も」
 涙を浮かべて言う。
 そう言われてみれば眠たそうな顔をしている…ような気がするけど普段からこんな顔のような気もする。
 「いまにも眠っちゃいそう」
 あくびをかみ殺しながら悟さんが言うので、心配になって隣を見ると運転手は目を閉じていた。
 「さっ!悟さんっ!」
 慌てて大声で名前を呼ぶ。
 「あ…。ごめん。俺寝てた?」
 とろんとした目で私を見る。まだ半分夢の中、という感じだった。
 「寝てました…あの…前見て運転してください…」
 「ごめんごめん。俺、眠気に弱いんだ。あ、ねぇサービスエリアで休憩しようか?二人とも眠たいわけだし。お昼寝しよう。あ、昼じゃないか。朝寝?」
 このまま眠そうな悟さんが運転を続けたらと考えて私は大賛成した。
 そうして私達を乗せた車はしばらく広い駐車場の上で休むことになった。
 仮眠タイムスタート、と悟さんは言って、自分の座っているシートを後ろに倒した。私が話しかける間もなく、すぐに寝息が聞こえ始めた。名前を呼んでも反応なし。完全に寝入ってしまったみたいだ。
 無防備に仰向けに眠る悟さんの寝顔を見下ろす。
 閉じた瞼、ツンとした鼻先、薄い唇。綺麗な顔立ちの人だ。眉の辺りまでこげ茶色の前髪がかかっている。お姉ちゃんの彼氏だった頃は、髪は黒くて坊主より少し伸びたぐらいの長さだったのに。
 ひとり起きていても寂しいので、私もシートを倒して目を閉じた。