と笑った。
 恥ずかしくなって真っ赤になりながらおにぎりを食べきり、ペットボトルの蓋を開けた。お茶を口に含んでいる途中で悟さんが話し出した。
 「そのまま食べながらでいいから聞いて」
 私はうなずいた。悟さんは続ける。
 「俺にはなんにも気兼ねしなくていいから、いたいだけウチにいていいよ。でも、俺は花穂ちゃんが夜中なんかにひとりでいるのは危ないと思って言ってるだけで、家出自体を応援してるってわけじゃないよ。落ち着いたらでいいから、ちゃんと自分の家に連絡をいれるって約束して。それと、もし帰りたくなったらいつでも送ってくから言ってね。でも、その時までは俺のところでゆっくりしていっていいから」
 そう言うと悟さんが私の方をむいて小指を突き出してきた。
 「?」
 「約束」
 「…は?」
 「約束の指切りしよう」
 な…。
 落ち着いた大人な性格の悟さんなのに、いきなり小学生みたいなことをやりたがるので驚いた。
 悟さんは口を真横に結んで真剣な顔をしている。しぶしぶ私は食べかけのサンドイッチを膝の上に置き、同じように小指を立てた。
 私の小指を絡めた悟さんの小指は陶器みたいに冷たかった。
 「じゃあ、せえので歌おう」
 と悟さんが言い、気は進まなかったけれど断れず、結局二人で指切りの歌を歌った。
 「ゆーびきーりげんまん」
 ラジオの音楽につられて音程がおかしい悟さんの歌に笑ってしまった。すると彼は歌うのをやめて、
 「あ。やっと笑った」
 そういって私にむかって優しい顔を見せてくれた。