「せっかくですけど…迷惑かけますから…」
 「迷惑だなんて思わないよ。俺のことは気にしなくていいから」
 「いえ、でもやっぱりいいです。放っといてください」
 拒むような態度を見せると、そっか無理言ってごめん、と悟さんは心配そうな顔で二、三度私を振り返りながらコンビニを出て行った。
 しかし、しばらくしてからまた戻ってきて、レジでなにやら買った後、私のそばまできた。
 「やっぱり行こう。ひとりでこんなとこいたらだめだ。危ない」
 悟さんは私が持っていた雑誌を取り上げて棚に戻すと、男の人の力で手を引いた。
 「あ…あのっ」
 戸惑う私に構わず、そのまま悟さんは私の手を引きながらコンビニを出て、入口付近に止まった車のそばで止まった。
 左手は私の手を握って離さないまま、自由な右手でポケットから鍵を取り出した。それを鍵穴に差し込みロックを解除すると、運転席には乗らずに、ぐるりと車体をまわって助手席のドアを開けた。
 「乗って」
 「え…」
 「大丈夫だよ。誘拐とかじゃないから。だから乗って」
 優しくさとすような言葉に押されて、私は黙って助手席に乗り込んだ。
 悟さんは運転席に座るとエンジンをかけ、すぐに暖房を入れた。きっと私のためだろう。
 それから彼は体を捩って後ろのシートに放ってあったらしいスーツのジャケットをとると、私の膝にかけてくれた。
 ラジオをつけるかと聞かれ、沈黙した時の気まずさを考えて、つけてくれるように頼んだ。悟さんがスイッチを入れると、しっとりした音楽がスピーカーから流れだした。
 「あ、これ。はい」
 突然コンビニの袋を渡された。なんだろうと中を覗くと、おにぎりとサンドイッチとペットボトルのお茶が入っていた。
 「あの…、これは?」
 思わず悟さんの顔を見た。
 「食べていいよ。あ、お腹すいてない?」 さっきレジで悟さんがなにか買っているのを見たけれど、わざわざ私のために食べ物を買ってくれていたなんて…。
 正直にいうと、お腹はこれ以上ないってぐらいに空いていた…ので、もちろん、
 「空いてます。あの…じゃあお言葉に甘えて…いただきます」
 「どうぞ」
 シャケのおにぎりは好物なので、気がつかないうちににやにやしていたらしい。口に頬張っていたら悟さんが、
 「おいしそうに食べるねえ」