「さっきから思ってたんだけど。敬語はやめようよ。なんかよそよそしくて寂しい感じする」
 悟さんは本当に寂しそうな表情を浮かべながらコーンをひとかじり。私もひとかじりして飲み下してから返事をする。
 「いえ…。だって、一応、悟さんは年上ですし」
 「関係ないって、年なんて。それにたったの三つしか違わないじゃん、ね」
 微笑んで悟さんはこちらがクラクラするぐらい優しい顔になった。
 基本的には会話中も下をむいていて陰りのある雰囲気なのに、微笑む瞬間はパッと華やかになる。
 「でも…」
 「でもじゃないよ。先輩の命令だよ。敬語はダメ。俺が嫌だから」
 おおらかなのになぜか逆らいがたい、悟さん独特の不思議な口調に、私はしぶしぶうなずいた。
 「…わかりました」
 「敬語はダメだってば。"わかった"でいいんだよ」
 「わ…わかった…」
 おそるおそる言ってみると、悟さんが空いた方の手で私の頭を撫ぜた。よろしい、と孫を褒めるおじいちゃんみたいにニコニコ。…と思ったら、急に私の頭から手を離して、しまった、と呟いた。
 「ごめん。手にクリームついてた。髪の毛ベトベトしたらごめん…」
 笑顔は跡形もなくなって、心から申し訳なさそうな、暗い顔になった。
 「大丈夫ですって、このぐらい」
 うなだれる悟さんを慌てて元気づける。
 「ごめんね」
 「はい」
 「あ…。また敬語」
 悟さんに軽く睨まれた。
 強いまなざしに、頬が熱くなっていくのが自分でわかった。見られないように、さりげなく運転席の反対側の窓の方をむいた。
 しばらくして悟さんも私もソフトクリームを食べ終わったので、さてどうしようかということになった。
 「トイレは大丈夫?」
 まるで親みたいなことを聞くな、この人は。子供扱いされているようであまりいい気はしない。
 一応大丈夫と答えると、
 「うーん…あんまり言うとしつこいから、これで最後にするけど」
 一息つく悟さん。
 私は運転席の悟さんを見た。
 「…ホントにいいの?家、帰らなくて」
 心配そうな瞳にであって、心が揺れた。
 けれど帰る気にはならなかった。もう私にとって、あの場所にいることは苦痛でしかない。
 「いいの」
 言葉に力をこめた。