「いただきます」
 「どーぞ」
 目の前には鮮やかな黄色のオムライス。悟さんが作ってくれたものだ。
 私は喜んでその上にケチャップで赤いハートを描いた。
 するとヒカルが私のハートを指差す。
 「下手」
 なっ…!
 「うるさいなぁ!だったら自分書いてみてよ!」 
 「別にいいぜ」
 にやりと笑ってヒカルはケチャップのチューブを器用に動かした。
 「これでどうだ」
 卵の黄色い表面に、赤い二文字が並んでいた。
 『カホ』
 「ちょっ…、ここは絵書くでしょ、普通。っていうかなんで私の名前なの!」
 「でもお前よりよっぽどうまいだろ?」
 「うっ…」
 確かにかなりの達筆だった。言い返す言葉がない。
 「そしてこれを…」
 ヒカルがスプーンを握った手を持ち上げた。
 「こうする」
 「え?」
 スプーンの先で『カホ』のカの字が消された。その上から新しい文字が書かれる。
 「…ア?…アホ?!ちょっとあんたねぇ!」
 「やめろよ食事中に暴れるの。サト兄が迷惑するだろ」
 立ち上がりかけていた私はハッとして悟さんを見た。
 悟さんはにこっと静かに笑ってオムライスを食べ始めた。
 おずおずと座りながら隣に目をやると、ヒカルが不敵な笑みを顔いっぱいに浮かべていた。無性にいらついて、私はオムライスを口いっぱいに頬張った。


 シャワーを浴び、悟さんが貸してくれたTシャツとジャージを着て、リビングへ行った。
 「悟さん」
 テレビの前で座っている背中に呼び掛ける。振り返った悟さんより先にヒカルが口を挟んできた。
 「お、風呂上がりの花穂、色っぽいねぇ」
 無視して悟さんの隣りに腰を降ろした。
 「お風呂まで貸してもらっちゃって、ありがとうございました」
 「いいよ。風呂場狭かったでしょ?ごめんね」
 「いえ、私ん家のとあんまり変わりませんよ」
 Tシャツもジャージも男物のためサイズが大きい。Tシャツの袖は手の甲まで覆い、ジャージの裾は床に引きずるぐらいの長さだ。けれどとても着心地がよかった。悟さんの服。それに身を包んでいると思うと幸せな気分だった。
 「ふぁ…」
 悟さんがあくびをした。
 「眠いんですか?」
 「ん。シャワー浴びたらすぐ寝ようかな。明日朝早く起きなきゃいけないし」