「はいはい。とりあえず上がんなよ。外寒いしょ」
 「えっ…あの」
 ヒカルに無理矢理部屋の中に引っ張りこまれてしまった。そのまま背中を押され、入れ入れとせかされたので、結局傘を貸してと言い出せずに靴を脱いだ。
 「花穂は何歳なの?」
 悟さんに促されるままに再びこたつに入ると、ヒカルがすぐ隣に座ってきた。
 「…16。高二です」
 「まじで!じゃあ俺のが一個上だ!先輩だぜ?敬えよ」
 やだよバカ。
 「あ、今、嫌だって思ったでしょ!」
 「えっ!そ…そんなこと…」
 「いや、絶対思った。俺にはわかる」
 なんでばれたかな。
 そこへ悟さんが茶色い木の器を運んできた。
 器をのぞきこむと、中に入っていたのはおせんべいだった。
 おせんべい…?し…渋い…。
 「ごめんね、こんなんしかないや」
 「あ、いただきます。おせんべい好きですし…。ありがとうございます」
 「ところで、花穂って何者?俺、名前以外知らないんだけど。なんでここにいんの?」
 おせんべいをかみ砕きながらヒカルが言った。
 悟さんが私を見た。話していい?とうかがうように。
 私は、自分で話します、と言い、家出をしたこと、とりあえずコンビニで立ち読みしていたこと、偶然悟さんに会ったことなんかを話した。
 「へえ。サト兄の元カノの妹か」
 「うん」
 ヒカルはにやにやしている。意味もなく馬鹿にされているようで腹が立ってきた。
「ヒカルさんは…」
「呼び捨てでいいよ」
「…ヒカルは、なんでここにいるの?実家は?」
「ああ、今だけだよ。冬休み中だけ。もう俺推薦で大学受かったからさ、暇でバイトしてんだ。実家周辺よりこっちの方が街だから割のいいバイトがあるわけ。で、サト兄に頼んで冬休み中だけ居候させてもらってんの」
 へえ…。なんていうか、けっこうしっかりしてるんだ。意外。
「ひーくんのおかげで部屋が散らかって困るんだ」
悟さんの物言いでは、全然困っているようには聞こえない。けれど、確かに部屋は泥棒に入られたみたいに荒れている。たぶん、この散乱した漫画類も、みんなヒカルの物だろう。悟さんの物であるはずがない。絶対ヒカルのだ。
 ふと時計を見ると、14時を過ぎていた。