悟さんは笑みを浮かべて、
 「よかった」
 と喜んだ。
 おかしい、と思った。
 私の知る限りの悟さんのイメージとこの部屋はあまりにも釣り合わない。両者はつぎはぎを縫い付けた布のようにちぐはぐだった。
 おもいきって、尋ねることにした。
 「あの」
 「ん?」
 「変なこと聞くようですけど」
 「なに?」
 「ここって、悟さんの部屋…ですよね?」
 悟さんは一瞬キョトンとしてから、そうだよ、とうなずいた。
 そうだよね、招きいれてくれたんだし、当たり前だよね、と私は落ち込んだ。
 しかし、悟さんが、あ、となにかを思い出したような声を出した。
 「そうだ、今は俺だけの部屋じゃないや」
 「…?」
 悟さんの言った意味を理解できずにいると、ふいにガタンと物音がした。
 ドアが開いたとき、多分私はひどく間抜けな顔をしていたんだと思う。
 その男、というより私と同い年くらいの少年は、私の顔を見るなり、ふっと笑った。
 「ひーくん、今日休みだったっけ?」
 悟さんが親しげに話しかける。
 ひーくん…?
 「サト兄、誰、これ」
 悟さんの問い掛けを無視して、私を顎でしゃくった。
 サト兄…?
 「ああ、花穂ちゃんって言うんだよ。花穂ちゃん、この子はヒカル。俺の二つ下の弟」
 弟?
 悟さんの?
 呆然とする私に、ヒカルがずかずかと歩み寄って来た。座っている私の前でしゃがむと、にやにやしながら私の顔をのぞきこんでくる。不愉快に思って顔を背けると、無遠慮に肩を叩かれた。
 「よろしく、花穂」
 いきなり呼び捨てされてムッとしてにらみつけると、ヒカルは、おー怖っ、とわざとらしく言って笑った。
 その笑顔はさっきの人を見下すようなにやけ顔とは違って、小学生の男の子みたいに純粋で綺麗なものだった。
 一瞬、ヒカルの顔が悟さんにだぶって、私は不覚にもドキッとしてしまった。