まずはじめに、私はこう思った。
 意外にも悟さんはだらしがない。
 だって、玄関を入るなり靴が散乱していて踏み場がないし、なにより室内のむっとした空気は耐えがたかった。
 三年前にできたらしいまだ新しいアパートの二階に彼の部屋はあったのだけど、一歩踏み入れて私は本当に悟さんの部屋なのかと疑った。
 けれど悟さんはにっこりとして「あがっていいよ」と手で部屋の奥を示した。
 これがこの人の真実の姿なのかと思うと、言葉がでなかった。
 悟さんに促されて部屋に入った。入って一番に目についたのはテレビで、画面では漫画のキャラクターがなにやら喋っている。
 「あの、テレビ」
 「ん?」
 「つけっぱなしですよ」
 悟さんは、ああ、とうなずくとこたつテーブルまでリモコンをとりにいき、それでテレビを消した。
 「まったく、あいつは」
 独り言のように呟くのを、私は聞いていた。
 あいつ…?
 座るように促されたものの、足元にはこたつを囲むように雑誌や漫画が散乱している。こたつ板の上はみかんの皮や、おそらく使用後だと思われる丸めたティッシュ達で占拠されていた。
 適当に雑誌を積み上げて座る場所をつくり、こたつに入った。中は暖かく、黄色い布団から尻尾のようにチョロリと伸びるコードはコンセントにささっていた。こたつもつけっぱなしだったのだろうか。
 近くに無造作に置かれた漫画に目を落とし、飛び込んで来たその怪しいタイトルにドキッとした。
 悟さんがキッチンでお茶を入れてくると言って席を立ったので、その隙にすばやく漫画をめくって中を見た。案の定、卑猥な内容で、ほとんどのページに裸の女の子が登場する。あたりの漫画をめくってもみんなどれも同じようなもので、私は愕然とした。
 悟さんがカップを二つ持って戻ってきたので慌てて座り直す。
 彼は一つを私の前に置くともう一つを自分の口元に運んだ。私はお礼を言い、飲もうとしたけれど、漫画のショックで気持ち悪くて、なかなか口をつけられない。
 私の様子に気付いた彼が、
 「もしかして、紅茶嫌だった?」
 と不安げに聞いてきた。
 そんなことはないと笑って、無理をして紅茶を飲んだ。
 「味、どう?」
 「おいしいです」
 気持ちが悪くても紅茶自体はすごくおいしかったので、本心で言った。