コツコツと窓を叩く音で目を開けた。
 湿気が多いからだろう。暖房の効いた車内の窓はうすく曇っていて、その中にぼんやりと青い色がにじんでいた。
 体を起こして窓を開けると、見慣れたブルーのシャツをバックにソフトクリームの頭がふたつ現われた。
 「もう少し窓、開けてくれる?」
 言われて私は再びボタンを押した。
 曇った窓がゆっくり下がり、瑞々しい生の景色が広がっていく。
 窓がいっぱいまで開くと、ひとつのソフトクリームが窓枠を越えて車内に侵入してきた。人の食べ物じゃないみたいに真っ白なクリームの先端が、クリンと可愛らしくお辞儀をしている。
 お礼を言って受け取ると、ブルーのシャツが窓から消えて、運転席側に移った。
 ドアが開いて、悟さんがどすんとシートに座り、車が少し揺れた。
 悟さんの左手には私と同じ、バリウムのようなソフトクリーム。
 「冬にソフトクリーム…ですか?」
 尋ねてからソフトクリームをひとなめするとひどく甘くて、唾や舌や歯茎が砂糖漬けにされていくような感じがした。
 悟さんはにっこりしてうなずく。ぺろりとバリウムをひとなめして、
 「俺、冬にアイス食べるの、好きなんだ」
 そしてまたぺろり。
 悟さんは私よりもペースが早い。私のひとなめの間に悟さんはふたなめしている。
 黙々となめ進めていると、
 「暖房、ちょっと切ろうか」
 悟さんが言い、私はうなずいた。
 車内の暖かい空気にあっさり負けて、手の中のソフトクリームはトロリと溶けかかっていた。
 「おいし?」
 「はい」
 さっきからブンブンと唸るような音がしている。うるさいと思って片手で窓をこすると、隣に止まった引越し屋のトラックに描かれたゾウのキャラクターに睨まれた。運転席に人は乗っていないようだけど、どうやらエンジンをかけたまま外に出たらしい。迷惑だなぁ。
 悟さんがウィンカーをオンにした。
 ウィンカーが不透明な膜をさらい、そこから平凡なインターチェンジの駐車場が顔をのぞかせた。
 ふいに視線を感じて横をむくと、悟さんが私をじっと見つめていた。
 なんだか恥ずかしくて何も言えずにいたら、彼の方から口を開いてくれた。
 「ねえ、花穂ちゃん」
 「…はい」