「掛けちゃった、非通知だけど」

「いいよ、非通知でもいいからって言ったじゃん」

低めの優しい声。
不思議とコースケの声を聞いていると安心する。

「元気ないね?」

1度しか会ったことがないのに、少し声を聞いただけでそう言われて驚いた。

「そうかな」

「なんかあった?」

「ううん、別にそういうわけじゃないんだけど」

適当にごまかして、当たり障りのない雑談を続ける。
30分も話した頃には、誠司のことなんかすっかり忘れてしまっていた。

「あ、俺もうすぐバイトなんだ」

「そっか」

「また掛けてよ」

「番号聞かないの?」

「いいよ。俺のこと信用出来るようになったら教えて?それまでは非通知でいいから」

「うん。ありがとう」

私は番号を教えないまま電話を切った。
次に話したら番号教えてもいいかも…と思うくらい、心を開いている自分に気付いた。
どうしてだろう。まだ知り合ったばかりで、どんな人かもよくわからないのに。
そんなことを考えながら、その日はぐっすり眠ることが出来た。