「……私たち、一年後はどうしてるんだろうね」

旅行代理店を出た後、チョコは俺が持つカバンの中にパンフレットを詰め込みながら言った。

「陽人はきっと、いつでもどこでも走ってるよねー」

「その言い方、なんか馬鹿っぽくないか?」

「気のせい気のせい」


……いや、絶対、気のせいじゃないだろ。


「ねえ、陽人。さっきの話なんだけどね」

「ん? なんの話だ?」

「あ、もう忘れたのー? さっき私に聞いたじゃん、『医者になるのか?』って」


……そうだった! 

すっかり忘れていたけれど、俺は悩んでいたんだ!!


「あのね、私、スポーツドクターになろうと思うんだ」

「え?」

「もちろん実家の跡を継ぐことを全く考えていないわけじゃないんだよ。だけど、医学部を目指そうと思った理由はそれじゃなくて」


チョコが、俺の顔を見上げる。


「陽人がアスリートで、私はスポーツドクター。……そうやってずっと二人三脚でやっていけたら、最高だと思わない?」

本当に嬉しそうに。
楽しそうに。

そして得意げに。

チョコは顔をくしゃくしゃにして笑った。


どうしたらいいんだ。

俺、泣いてしまいそうだ……。


「いや、それはもう最高だ。素晴らしいと思う!」


そう言う俺の声は震えていて。


──あぁ、やっぱりダメだ。

俺の目頭はどんどん熱くなっていった。