「そんなこと、陽人に言われなくても分かってるよ」


最近、陽人はこの手の話になるとやたら説教くさくなる。
自分のほうがチョコとの付き合いが長い分、先輩面をしたいんだろう。


陽人の話を聞きながら、オレは、昨日陽人の部屋で見下ろした深月の顔を思い出していた。

 
真っ赤な顔して。
涙で潤んだ瞳はまっすぐにオレに向けられていて、
小さくて薄い唇を半開きにして息を潜め、オレの次の動きをじっと待っている……

だけどそれは決してオレを誘ってるわけじゃなくて、素の表情だ。

そんなときの深月は余裕がなくて、そのまま気を失ってしまうんじゃないかと思うくらい、いっぱいいっぱいで。


そんな、いつもの緊張感皆無の表情とは少し違う顔──。


……意地悪なのかもしれないけれど、オレはその表情が好きなんだ。


付き合い初めて三ヶ月経つって言うのに、深月はちっともオレに慣れない。

オレが見つめるだけで緊張しまくって動揺して。

オレだって男だから、それから先に進みたくないわけじゃない。

だけど。

深月を見つめて、顔や髪に触れて、キスして……
そんなことに慣れてしまって、あの反応が見られなくなるのは嫌なんだ。


だからまだ、変わりたくない。
別に、先を焦らなくてもいいじゃないか。


昨日は確かに、慎のことがあってムキになってしまったけれど、いつもそうやって途中で止めてしまうオレ。


──ビビってて先に進めないのは、オレのほうかもしれないな。