ヤマタロの姿が見えなくなるまで、私はずっとその場に立ち尽くしていた。



……陽人、ごめん。

本当に、ごめんっ!


私、ほんのちょっとだけ、ヤマタロにときめいちゃったよ。


……それと、ね。

あんないいヤツに、あんなに想われて、

深月のことが羨ましいなぁって、思っちゃったよ……。










その時、教室のドアが開いて、テスト用紙を抱えた講師が入ってきた。

「今からテストをしますので、筆記用具以外は机の中にしまって下さい」

その言葉を合図に、教室にはさらにピンと張り詰めた空気が広がる。


私は、前を向いたまま、小声で慎くんに声をかけた。

「ねえ、慎くん。今になって深月を困らせるようなことしたら、許さないからね」


慎くんも、前を向いたまま、問題集を机の中に片付けながら答えた。

「そんなこと、言われなくても分かってるよ。もう相馬に殴られるのはまっぴらだ」



──なんだか、無性に陽人に会いたかった。



少しでも早く、「昨日はごめんね」って伝えたくて。

こんなつまんないことでケンカしたり、モヤモヤした気持ちを持ち続けているのはまっぴらごめんで。



慎くん、

ヤマタロ、

そして、深月。


みんな、一生懸命誰かを好きなんだ。


──私だって負けていられない!


だからまずは、さっさとこんなテストを終わらせて、陽人にメールを送るんだ。


うん! やる気が出てきたぞっ。


私は「よし!」って気合を入れなおすと、目の前のテスト問題に集中し始めた。



《チョコ編・終》