「私だってあの二人のことは気になるよ。だけど、さぁ……」


私はマニキュアの筆を瓶に収め、自由になった左手で携帯をしっかり握り締めると、大きく息を吸ってから叫んだ。


「そんな事明日話せばいいでしょ、陽人のバカ! 私は明日のデートの話がしたいって言ってるのーっ!」

「うわぁっ、すまんっ!」

「それに『そんなことより』ってどーいうことよ!? 私たちのデートの話はあいつらの痴話ゲンカ以下なわけっ!? えぇっ!?」


携帯からは、陽人の慌てふためく声が聞こえてきた。


ごめん、ごめん、許してくれって何度も謝る陽人は、気付けば私のことを『チョコ』じゃなくて『蝶子』って呼んでいて。

陽人が私のことをこう呼ぶのは、ホントに余裕がないときだけだ。
どうやら陽人は本気で困っているらしい。


「もういい、知らないっ!」

「おい! 蝶子、待ってくれー!!」


誰が待つもんかっ!
陽人なんて知らないんだからっ!


「うるさいっ! ポテチくさい部屋で一人で反省してろーっ!」


私はそんな捨て台詞を吐いて携帯をブチっと切った。

すぐに陽人から折り返し電話がかかってきたけど、それも無視。


まったくもう。
可愛い彼女にこんな想いをさせやがって。


──少しは頭を冷やせっていうの!!