それは不意打ち。
ほんの一瞬の出来事だった。


「ぬぁっ!」


三ヶ月も付き合っているわけだし、別にこれがヤマタロとの初めてのキスってわけじゃない。

ただ、その手際のよさにはいつもながら驚かされるし、どうしてこうも余裕があるんだろう? って感心すらしてしまう。



そして、そんなキスの直後。


「いい子にしてないと、ご褒美はないからな」


ヤマタロは、至近距離からその甘いマスクで私に囁くと、そのままエレベータの扉の奥へと消えてしまった。



私が呆然としている間に、ヤマタロを乗せたエレベータは1階へ降りていく。




そして。
一人取り残された私は、しばらくその場に立ち尽くしていた。


……心臓が、まだドキドキ騒いでいる。


「なんなのよ……」


頭の中はヤマタロでいっぱい──。

なんだか目の前にあるエレベータの扉に、自分のおめでたすぎる頭をガンガンぶつけたくなる。


「こんな状態で……一体、慎と何ができるって言うのよ……もう」



結局、今でも私は、ヤマタロにかなわないんだ。

ヤマタロは、相変わらずいつだって私のことをお見通しで。

何があっても、どんなときでも、余裕たっぷりで。




──あーもう、悔しいっ!




「ヤマタロの馬鹿ぁーーーーーっ!!」



静まり返った夜のエレベータホールに、

犬の遠吠えにも負けないくらい甲高い私の叫び声が響き渡った。