だけどここは我慢だ。
私は、怒りをぐっとこらえてヤマタロに聞いた。

「ヤマタロ、私が慎と別れた次の日に『もう慎の話は二度と聞かねー』って言ったこと、覚えてる?」

「ああ……そういえばそんなこと、言ったかも知れないなぁ」

……かも知れないじゃなくて、確かにそう言ったんだよっ!
私は心の中で呟くと、話を続けた。

「うん。だから私、言い出せなかったんだ。言わずに済むんなら、それでいいかなーって。だって、本当に慎とは何もないから、わざわざ話す必要はない気がして。黙ってた理由はそれだけだよ……?」

「……本当に?」

「本当だってば!」


見上げると、そこにはヤマタロの優しい顔。

棘がすっかり取れたその表情に、私は思わずホッとした。

よかった。もう怒っていないみたいだ……。


「うん……。だって、私には、ヤマタロだけだから……」


ひゃー!

ヤマタロに優しく見つめられたからって、私、何を口走ってるんだろう!

そんな自分の言葉に、顔がみるみる赤くなっていくのが分かる。


だけど、これでヤマタロが機嫌を直してくれるんだったら、恥ずかしいけど、まぁ……いいや。

私の作戦はひとまず大成功……



すると。
私の頭上で、ヤマタロが微笑んだ。

ううん。
微笑んだんじゃなくて、ニヤリと「ほくそえんだ」んだ。


そして。

「分かってるよ、それくらい」


……え?