対外的には「強化合宿」ということになっている今回の旅行だけど、実のところは、三月いっぱいで退職してしまう滝田先生のお別れ会だ。

以前から狙っていたセミプロオーケストラに欠員が出たから、これを機に音楽に専念したい。
そう言って先生が辞表を提出したのは年が明けてすぐのことだった。


そんな突然の話に、私たち部員は「どうしよう!」って戸惑うばかり。

先生と過ごせる時間は、あっという間に過ぎてしまった。


……でも。

“このままお別れするのはイヤだ! 最後に先生といい思い出を作りたい!”

そんなみんなの強い希望から、急遽実現した今回の旅行だった。


今日の午後、ホテルに到着した私たちは、パート練習をした後、ホールに集まって先生と最後の合奏を行った。

その演奏は、いつもに比べて出来が良くなかったけれど、滝田先生は一度も私たちを叱らなかった。

それどころか、

「おまえ達、ホントにうまくなったよなぁ」

なんて、しみじみ思い出話を語り始めるものだから、みんな感極まっちゃって。

泣き出す子もいたりして。

余計演奏どころじゃなくなってしまった。


でも、最後に先生といい思い出が出来てよかった。

そんな風に思える、貴重な時間だった。