「目が泳いでるよ。ちょっと落ち着いたら?」

それってキヨちゃんのせいじゃん!

俺が目を逸らそうとすると、キヨちゃんは面白がって俺の視線の先に自分の顔を持ってくるんだ。
だから、俺がどんなに逃げても、目の前にはずーっとキヨちゃんの顔(しかもどアップ!)があって。

今考えれば、目を閉じれば済む話だったんだよね。
でも、その時は俺、いっぱいいっぱいで、瞬きすることさえ忘れていて。

俺は変な汗かいて、頭に血が上って、心臓じゃなくて脳がどくんどくんって収縮してる気がして、そのまま気を失いそうになって。

──もう無理! 勘弁して!

あと数秒こんな状態が続いていたら、俺は間違いなく倒れていたよ。

だけど幸い、そこでキヨちゃんは俺から目を逸らしてくれて。
自分の頭をがしがしってかいたあと、

「あーあ。年下を可愛いと思うなんて、私も歳食っちゃったかなぁ」

そう言って、俺の耳にふぅって息を吹きかけて。

「この曲のお礼に、ひとつだけ白状してあげる。……あのね、私、メガネが初めてコンタクトレンズをつけてきた日、実はドキッとしちゃったんだ」

キヨちゃんの息がかかった耳がくすぐったくて、身をよじらせる俺。

キヨちゃんはそんな俺を見て「可愛いヤツ」ってクスって笑ったかと思うと、


「私の“祈り”が叶うかどうか……あとはアキ次第だよ?」


それはささやき声だったけれど、

キヨちゃんは間違いなく、そう言ったんだ。



──“アキ”って。

──俺のことを、“メガネ”じゃなく、“アキちゃん”でもなく、“アキ”って。


キヨちゃんは確かにそう言うと、掴んでいた俺のシャツを離して立ち上がって。

そして、何もなかったかのように、「さぁ、働いてくるか!」って、仕事へと戻っていったんだ。


「じゃあね。今夜もメール待ってるから」


なんて、途中で一度振り返って、こっちに向かって手を振りながら──。