「色々めんどくさくなってきちゃったな………
どっか、一人旅行こうかな。」
「あ、いいね!
私も行く行く!!」
「いや………それじゃ一人旅にならないし。そもそも、遥さん騒がしいから余計疲れちゃいますよ。」
「なっ!? 失礼にもほどがあるわよ!」
シラッとした顔でビールを煽る蒼介の横で頬を膨らませる遥。
「誰も自分の事を知らない場所で誰にも干渉されずに過ごしてみたり…………まぁ、そうなったらなったで寂しいんでしょうけど。」
「……同じ事言ってる。」
「…………?」
遥に目をやると、綺麗に手入れされたネイルを指で撫でている。
「…俺、前に同じ事いいましたっけ?」
少々飲み過ぎたかと、頭をかきながら姿勢を正す。
「…思うんだけどさ。誰も自分の事を知らない場所に行っても蒼介君は意味ないよ、きっと。」
「……?」
「だって、どこに行っても誰に対しても同じじゃない。誰にも悲しい顔を見せないし、怒ったりもしない。
誰にでも壁を作ってるの。相手には気づかれない透明の壁。」
「…そんな事ないっすよ。今は素ですし。」
「私や誠は別として………
いや、違うか………
実際のところ、私や誠も蒼介君が何考えてるのか分からないよ。」
