蒼介の呼びかけに答えることなく困り顔のまま立ち尽くす夏帆。




「綾さん………泊まるんですかね?」




「うーん………終電の時間も過ぎちゃったしなぁ。
それに爆睡しちゃってるから起こすのも気が引けるしね。」




誰のせいだよ…と、いつもの蒼介なら突っ込むところだが、夏帆の不安そうな顔に気付き、ふぅと小さく息をつく。




「………どうしたの?柊さん」




「私の家……タクシーで帰るには、綾さんと折半じゃないと………」




― 話を聞けば…夏帆はこのマンションの最寄り駅から電車で5本乗り継いだ場所に住んでいるらしく、その調度真ん中の位置に住む先輩の綾と、タクシー代を折半しようとしていたらしいのだが…



「……タクシー代、いくらぐらいなの?」



「………多分、ここからだと1万円こえちゃうかも……。」


「……………」




返す言葉もなく、眉間を指でさすりながら今度は深いため息をつく蒼介。
目元にかかる指の隙間から遥を覗くと………


心配そうな顔つきで口元に手を当てている。




―この人…笑ってるし………

遥はニヤつく口元を手で隠していた。