狭い歩道で肩が隣り合うと、思いのほか距離が近く感じられた。
肘が触れそうになり、それを避けるように蒼介は大股で半歩前に踏み出した。
―思春期の中学生か、俺は………
道も分からないのに前に出てしまえば、夏帆の表情を伺う事もできない。
「………普通、可愛いと思ったら、笑わないと思う
んですけど。」
淡々と話すその声は幾分か部屋にいた時より刺がないように感じられる。
「………まぁ、そうだね」
高台を降りきると、歩道が少し広くなった。
やはり道が分からない蒼介は、再び夏帆と肩を並べて歩く。
「別に……嫌な理由だとしても、今日で会うのも最後だろうから、聞いておこうと思って。」
―今日で最後………
夏帆の何気ない一言。それは蒼介の胸に異様な痛みを残した。
「……ごめん」
「え…………」
突然の謝罪に驚いた夏帆はその場に立ち止まった。蒼介もそれにならって歩くのをやめる。
「い、今になって……謝るんだ」
そう、ぼそりと呟き、夏帆はふふっと、声を出さずに笑い出した。
「いや、むしろ………笑うんだね?」
「いや………だって、理由を聞いただけなのに、今になっていきなり謝るから………」
「柊さん……笑ったほうが可愛いね。」
「…………」
無意識ではあったが、サラリと出た蒼介のクサイ言葉に、夏帆の表情はこわばる。
「誰にでも……サラッとそういう事言うの、どうかと思います。」
バッサリと切り捨てると、夏帆は蒼介を置いてスタスタと歩き始めた。
