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「かんぱーい!」
―カツンッ
―チンッ
『この前の仕切り直し』と言って引かない遥に促されながら、ゆったりと交わす乾杯。
乗り気じゃないとこんなにも渇いた音がするものかと、その場にいる誰もが思ったに違いない。
………1時間ほど飲みすすめても、残念な事に、会話は途切れ途切れのまま。
たまり兼ねた誠が、さりげなく遥の脇腹を肘でつつく。
「………なぁ、遥。
誰と飲むかぐらい言っておけよぉ。………どうしてくれるんだよ、この空気……」
「えっ?私のせい?………だって、言っちゃったら夏帆ちゃんと蒼介君、来ないじゃない」
シラッと言ってのける遥の表情に反省の色は見られない。
「別に……私は何とも思ってませんから」
口調は落ち着いているが、夏帆の眉間にはまだ力がこめられている。
「大体、蒼介君がまた意味もなく笑うからいけないのよー」
遥の言葉に、夏帆の眉がピクリと反応する。それを綾と誠は見逃さなかった。
「か、夏帆の事を笑ったわけじゃ……ないですよね!…ねっ?新嶋さん」
そう言う綾の声はうわずっている。
「そうだよ!なっ?蒼介!
いや………この際、何で笑ったにしろ、失礼に違いないんだから、ちゃんと謝れよ!」
ビール片手に『そうだ、そうだ!』と頷く遥の前には既にビールの空き缶が2つ転がっている。
「俺………謝らないよ?
意味もなく笑ったわけでもないし。」
ようやく口を開いた蒼介は、ニッコリと夏帆に微笑んだ。
