唯は理科室へ逃げ込んだ。

よくよく考えれば教師を誰か呼べばよかったのに気が動転してそれさえ考えられなかった。

ナイフを向けられて殺されそうになったのは生まれて初めてである。

さすがの唯も冷静さを保てない。

理科室の机の下に隠れた。

理香が心配だったが、千里は理香の生き地獄を見たがっているので殺される可能性は低い。

心臓がバクバク音を立てている。

どうすればいいのだろう・・・。

唯は胸の前で手を握った。

そしてふと思い出した。

「あの紙・・・」

ブレザーのポケットに手を入れて白い紙を取りだした。

紙を持つ手が震える。

胸ポケットに刺さっているボールペンの蓋を外した。

文字を書こうと紙にペンをつけたが、そこから先に進めなかった。





本当に名前を書いていいのだろうか・・・

後悔してしまうのではないか・・・

人の存在を消すことが果たして許されるのか・・・






唯の頭でストップが掛かる。

しかし脳裏に理香の姿が過ぎった。

仮にここで教師を呼んで事なきを得たとしても、千里の執念深さを考えるとこのままで終わるとは思えない。

何らかの方法で教師を丸めこみ、再び理香を追い詰めるのではないだろうか。

唯は決心した。