消して消されて

あなたというのは唯のことを指していた。

隣の女は理香のことである。

千里は唯を殺してその罪を理香に着せるというのである。

「ば・・・ばかじゃないの。あんたが私を殺しても理香が殺した証拠がなければ理香は捕まらないでしょ。ねぇ?」

唯は理香に同意を求めるようにして顔を向けた。

その表情は青ざめている。

「・・・証拠あるかもしれない」

口元を手で覆う理香。

「・・・あれ」

右手で指差す先を唯が追うと千里が持っているナイフに視線が行き当たる。

「私の指紋がついてる」

「な・・・何で?」

「だってこれ理香の物だもん」

千里がナイフをこれ見よがしに掲げた。

太陽の光が反射してキラっと光る。

「ちょっと拝借したの」

理香は護身用に普段からナイフを鞄に忍ばせていた。

それを知っていた千里はここへ来る直前に盗んだのだ。

手袋をしているのは自分の指紋を付けないためだった。

「理香が誰かといてアリバイを作らないために呼び出しておいて正解だったわ」

千里は昨日の時点で今日のことが予測できていた。

全て千里の計算通りだったのだ。

先日唯にいじめのシーンを見られて逃がされた後、千里はこっそり戻って2人の様子を伺っていたのだ。

そこで理香が唯に助けを求めたので全て話すことなど容易に予測できた。

そうなると今までの唯の行動から千里を呼び出すことは目に見えている。

千里はこの機会を利用して一気に畳みかけることを決心したのだった。