綾瀬が出て行ってから、食堂はとても静かになった。


先生もいるにはいるのだが、誰一人として喋らないからだ。


『...みんなどこに隠れてるんだろ』


ふと、その事を考えた。


一番最初に出て行った宗佑は、かなり遠くの場所まで移動することも可能だ。


次は永妻と由紀の2人だが、2人共警戒心が強いので、どこか一箇所に固まっているかもしれない。


梅くんに関しては予想が全くつかなかった。


『綾瀬は...』


綾瀬はどこにいるのだろう。


永妻のように食堂の外で待っているのだろうか。


それとも、たった一人でどこかで息を潜めているのだろうか。


「時間です。最後の方」


先生の声とともに食堂の扉が開けられた。


もうすっかり色が変わってしまった傘を握りなおし、私は立ち上がった。


扉から出る瞬間。


「...幸運を」


小さな声をかけられた。


振り向く事さえしなかったが、心の中で返事をした。


『...ありがとう』