相手に人は転んでいる。
どうしよう・・・。頭とか打ってたら。
なんて最悪の事ばかり考えていた。
「大丈夫。君こそ大丈夫?」
そう聞かれて少し戸惑った。
「え・・・ハイ。」
転ばされたのに相手の心配をするなんて今時こんな馬鹿もいるんだな。
そんな感情が胸の中を支配してた。
けどどうせそれも偽善か。
すべてが偽善に見えてしまった。

「俺前見て歩いてなかったからごめんな。」
そういってその男の人はニコッと笑った気がした。
私はどうしても顔をあげられなかった。
「私も前を見てなかったし。」
「手から血が出てるよ・・・おいで!!」
転んで手を付いたときに血が出てしまったんだろう。
その男の人は焦って私を引っ張った。
無理矢理引っ張られて行くとお店があった。
「大丈夫ですから。」
「血って危険なんだよ。」
とても切なそうに愛しそうに言った。
あなたは何を知ってるの?
そう言えば転んだときからこの人の顔を見てない。
どんな顔なんだろう?
ずっとうつむいていたから見えなかった。
「えっと・・・」
「消毒してあげるから。ほら。」
そう言って店に入れて貰った。
お店の名前は・・・何もない。けどこの建物はお店だよ。
「ここって?」
「店。」
そんなの分かり切ってる。
たぶん本気でそういってるんだろうけど。
「えっと・・・名前は?」
「俺は睦月。」
「あなたじゃなくて・・・」
どれだけ勘違いしてるんだろう。
こういう男の子って嫌だなぁ。
なんか話すの嫌だ。たぶん怖いから。
「月の異名」
その名前を聞いた瞬間体に電気が走った。