嘘カノ生活


その出会いから何週間か経った日、ふと彼女のことを思い出して、SASAKIに行った。

 
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

そう言って店員は俺を席に通した。
 
 
だけど、ふうと一息ついてから辺りを見回しても、彼女の姿はない。

まあいいやと思いつつ、いつも頼むコーヒーを注文して。

 
 
 
…何やってんだろうなー、俺。

別に1回話しただけなんだけれど。

それなのにわざわざ来る事なんてあったんだろうか。
 
 
だんだん馬鹿らしくなって、背もたれに寄りかかった。 
 
 
「帰るか・・・」
 
 
それから何の気なしに横目でスタッフルームの方を見ると、ドアのついていないそこには朝未ちゃんとこの前のレジのおばさんがいた。 
 
 
 
 
ぽつり、とかすかに聞こえる二人の声。

まあ声が聞こえたのは、その時間帯あまり混んでなかったからだろうけど。 
 
 
 
「あのね柏木さん、もうバイト始めてしばらく経つんだから、いい加減メニュー覚えてくれる?」