「何も、」
守れなかった。そう続くはずだった声は、煙のように虚しく消えていった。
・・・守れなかった。
重たい何かを背負っている凜華を、放っておけず、かと言って下手に触れられずに、何も聞かなかった。
ガラス細工のように、触れたら壊れてしまいそうだった、・・・何もできなかった。
凜華の小さな手を、両手で包む。
赤がついていた手は、今は俺の手より冷たくて、点滴に繋がれている。凍った花みたいに、力を入れたら簡単に折れそうだ。
「・・・逃げてばっかだな、俺は」
自嘲めいた言葉が無意識に出て、自分の愚かさにイライラして仕方ない。
二週間毎日ほとんどここに来ているが、そう思わなかった日は無かった。全国No.1の牙龍総長が、聞いて呆れる。
『お前は強くなれる』
俺が緋龍──凜華と初めて出会ったあの日、凜華が言った言葉が、ふいに蘇(ヨミガエ)って来た。