いつものように正門をくぐり抜け、自分の靴箱から上履きを取ろうとする。
空になっている靴箱は、いくら上履きを探しても見つかるはずもない。
「またか・・・。」
こんなことはしょっちゅうだ。
きっとまた、私の上履きはどこかのゴミ箱に無残にも捨てられているんだろう。
私は探すことを諦め、カバンから携帯用のスリッパを出して履き、教室に向かう。

廊下を歩く足取りが酷く重い。
まるで足が鉛にでもなったように。
「このまま、一生教室に着かなければいいのに」
そんな考えが頭の中に浮かぶ。

ゆっくり歩いていたはずなのに、気が付けばもう『2-5』と書かれたプレートの教室の前に立っていた。

締め切られたドアの向こう側からは、私の心情とはかけ離れた賑やかな笑い声が響いてくる。

――――このドアを、開けたら。
また、地獄のような1日が幕を開けてしまう。

今すぐにでもこの場から逃げ出したい衝動を必死に抑え、私はドアの取っ手にゆっくりと手を掛けた。

動悸がおさまらない。息が苦しい。
落ち着こうとしない心を無理やり落ち着かせ、遠慮がちにドアを開いた。

―――ガラッ

音に気付いたクラスメイトたちの視線が一気に集まる。
刺すような、冷ややかな視線。
さっきまでの賑やかさは消え失せ、水を打ったような静けさが教室全体を包み込んでいた。

私は入り口に立ったまま、視線を教室に泳がせた。

あの人は、まだ来ていないことを祈っていた。
しかし、窓際に寄りかかり、鋭い視線を浴びせてくる人物の姿を見つけた私は、落胆の色を隠せなかった。

目を合わせないようにしながら、俯いて自分の席に向かった。

全身に痛い程の視線を感じる。
誰も挨拶をしようと、声を掛けてくる人はいない。

ただ、軽蔑的に見つめるだけ。

―――こんなの、いつものことだ。
慣れている。

私は自分に言い聞かせ、机を探す・・・が、見つからない。
本来そこにあるはずの、私の机と椅子は、跡形もなく消えていた。

呆然と佇む私に、嘲笑を含んだ笑い声が浴びせられた。

その声の主は・・・窓際に寄りかかって私を睨んでいた、神崎早苗だ。

私は早苗を見据えると、震える声で呟くように言った。