──え?

あの電話?
あの時、私は何を言われたの……?

眉間に皺を寄せて必死にその時の会話を思い出そうとする私を、海は自慢げに見つめていた。

「俺、言ったよね? ミナミがソータさんのことを忘れられないのを、『仕方ないよね、6年も好きだった人なんだから』って」

「あ──」

私は思わず手を口に当てた。

「ミナミは14歳の時にソータさんと出会ったって言ってたでしょ? だとしたら、もし本当にミナミが22歳なら、そこは6年じゃなくて8年じゃないといけないんだ。だけどミナミは否定せずに、なんかこっちが驚くくらいあっさり頷いたから……そこで確定」

「……信じられない。あの時、そんなことまで考えてたの?」

「だから言ったじゃん、俺ってなかなかの策士でしょって」

体中から力が抜ける。

海が、マイペースで暢気そうに笑っている裏で、実はこんなに頭を働かせていたなんて。


──どう考えても、私の完敗だ。


「その頭を、もっと早く受験勉強に使っていれば良かったのにね……」

「あっ! ひどいなー」

海が1歩、私に近づいた。

「ミナミって何気に俺を突き落とすよね。まぁ、俺はいくら突き落とされても這い上がるけど」

ほんのわずかに縮まった海との距離。

思わず私は1歩後ずさりしてしまった。

「それに、浪人してなかったら、俺たちはこうして会えなかったわけだし、ね」

「……一体、どれだけ前向きなのよ」