三度目のキスをしたらサヨナラ

──私に、誕生日プレゼント?


ふと地面に目をやると、
私の影のすぐ横に、いつの間にかもうひとつ、長い影が延びていた。

そして私よりもずいぶん長いその影は、次第に私の影に近づいてくる。

「俺が見込んだプレゼントだ。間違いはないと思うんだけど」

──どうして?

その影を見ただけで、涙がこみ上げてきた。

「ウーさん…………」

私の涙声が届いたのだろう、ウーさんが笑う。

「おっ。その声だと、どうやら無事に届いたみたいだな? まぁ、気に入らなかったら、俺はいらないから。そこら辺にでも適当に捨てて帰ってくれ」

「ありがと……」

「また今度、2人揃って店においで。今日の仕切り直しなんていつでも出来るんだから」


最後に「おめでとう」の言葉を残して、ウーさんは電話を切った。


私たちの上空、少し低い位置を、どこへ向かうのか飛行機が大きな音を立てて飛んでいく。

いつもなら耳を塞ぎたくなるようなその轟音も、今はとても小さく、まるで囁くように聞こえた。


そしてその代わりに、懐かしい声が私を包み込む。

「髪、切ったんだね」

「うん……」

私は、じっと目の前の影を見つめたままで、後ろを振り返ることが出来なかった。

すると、もう一方の影から手が延びて、私の影の頭に触れた。

「もったいないなぁ。長い髪、すごく似合ってたのに」

その温かい手は、私の短くなった髪を何度も何度も優しく撫でた。



そして。

ベンチ越しに。

ふわりと。

私は、背後からその人影に抱きしめられた。



「……ただいま」



温かくなる背中、

耳元で囁かれる懐かしい声。


目頭がツンと熱くなり、頬が、唇が、体中が、小刻みに震えた。



私は、自分の目の前で交差された骨張った両腕を、泣きながらぎゅっと掴んだ。


「おかえり……」