「え……? どうしてその名前を?」

ソウが驚いた声をあげる。

「あのね、今日、リョーコちゃんに会ったの。バイト先に友達と来ていて。……ほら、漁港で写真見せてもらったでしょ? だから、すぐ分かったの」

「あぁ……そうなんだ……」

「ソウとホテルで会ったときの話をしてた……。リョーコちゃん、すごくいい子だったよ」

「うん……」

リョーコちゃんの名前を出した途端、あれだけテンションの高かったソウが黙ってしまった。


そして、沈黙が続く──。


なんだかその沈黙が苦しくて、緊張で私の喉はカラカラで。

私は目の前のグラスを手に取り、水を一気に飲み干した。

ゴクリ、と言う大きな音がして、ソウに聞かれてしまったんじゃないかと恥ずかしくなる。

だけど、電話の向こうのソウは何も言わなかった。

私は、思い切って聞いた。

「……ソウは私の名前、最初から知ってたんだね」

「うん」

それはいとも簡単に。
ソウはあっさりとそう答えた。

「だったら……最初のキスの後、『ミナ』って呼んだのはどうして?」

ソウのフッという笑みが私の耳を優しくくすぐる。

そして、まるで囁くように、ソウは言った。


「だって、ミナさんみたいな素敵な人とキスしたあとだよ? 他の人の名前を呼ぶなんて、そんな失礼なことできるわけないじゃん」