気持ちを落ち着かせようと深呼吸をするけれど、心臓の音は大きく、速くなる一方だった。
──だけど。
私はソウと出会った日、決して自分から名乗ったりしていない。
ソウは、いつ私の名前を知ることが出来たんだろう?
「はい、先にキムチ」
俯いている私の目の前に、ウーさんがキムチの入った小鉢を置いてくれる。
そしてその横には、輪ゴム。
「顔を上げるか髪を結ぶか、どっちかにしないと髪が汚れるぞ」
私はその声にハッとして、顔を上げた。
「今日も酸っぱいキムチで悪いけどどうぞ。……って、ミナちゃんに突っ込まれる前に言っとかないとな」
目の前には、ウーさんの穏やかな笑顔。
そうだ──。
ウーさんは、私がお店に顔を出すと、決まってこう声をかけてくれる。
『ミナちゃん、いらっしゃい』
ソウと出会った、あの日も。
確かにウーさんは私にそう言った。
そして。
ソウは2日目の夜、ホテルの隣のカフェで確かにこう言っていた。
『昨日初めてお店に入ったんだけど、メニューがなくて困ってさ。他にお客さんは1人もいないし、店には怖そうな店主──ウーさんだけだし』
「あぁ…」
思わず声が漏れる。
あの日、ソウは私より先にお店にいて、
後から入ってきた私が『ミナ』だということを知ったんだ──。
──だけど。
私はソウと出会った日、決して自分から名乗ったりしていない。
ソウは、いつ私の名前を知ることが出来たんだろう?
「はい、先にキムチ」
俯いている私の目の前に、ウーさんがキムチの入った小鉢を置いてくれる。
そしてその横には、輪ゴム。
「顔を上げるか髪を結ぶか、どっちかにしないと髪が汚れるぞ」
私はその声にハッとして、顔を上げた。
「今日も酸っぱいキムチで悪いけどどうぞ。……って、ミナちゃんに突っ込まれる前に言っとかないとな」
目の前には、ウーさんの穏やかな笑顔。
そうだ──。
ウーさんは、私がお店に顔を出すと、決まってこう声をかけてくれる。
『ミナちゃん、いらっしゃい』
ソウと出会った、あの日も。
確かにウーさんは私にそう言った。
そして。
ソウは2日目の夜、ホテルの隣のカフェで確かにこう言っていた。
『昨日初めてお店に入ったんだけど、メニューがなくて困ってさ。他にお客さんは1人もいないし、店には怖そうな店主──ウーさんだけだし』
「あぁ…」
思わず声が漏れる。
あの日、ソウは私より先にお店にいて、
後から入ってきた私が『ミナ』だということを知ったんだ──。



