ソウの手が再び私に触れる。
だけど、ソウは私をじっと見つめたまま、なかなか動こうとしなかった。

その緊張感に耐えきれなくなった私は体を後ろに引こうとしたけれど、ソウの手が私の後頭部をしっかり固定して思うように動けない。

「ソウ……どうしたの?」

そこで、ようやくソウが重い口を開いた。

「……ねぇ、ミナさん。お願いがあるんだけど。聞いてくれる?」

「なに?」

「一度でいいから、俺のこと、ホントの名前で呼んで?」

そう言いながら、ソウは私の方へ顔を近づけてきた。


──キスされる。

そう思って慌てて目を閉じたけれど、次の瞬間触れ合ったのは唇ではなく、お互いの額だった。


ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前にソウの顔。

月並みだけど、その綺麗な瞳に吸い込まれそうになって、私はソウから目を離すことが出来なくなった。

私は呼吸するのも忘れてじっとソウを見つめた。

そして、ソウが顔を傾けて、そのまま唇が重なると思った瞬間。

ソウの唇は私の唇のすぐ手前で止まってしまった。


「──“海”って呼んでくれるまで、キスしてあげない」


「……ソウ!」


私がそう言うと、ソウの唇は私の唇の上を素通りした。

そして、ふわりと私の頬に触れる。

その唇は、温かかった。