「どうして蒼太さんは、佐和子さんを選んだんだろう？」

ソウは前を向いてハンドルに手をかけたまま、まるで独り言を言うように呟いた。

「そんな無理をしてまで、ミナさんと別れないといけない理由があったの？」





「──佐和子は、蒼太の子を妊娠したの」





私は話を続けた。
ソウと同じように、前を向いたままで。
淡々と。


「ひどい話でしょ？　いきなり2人揃って現れて、そんなことを聞かされたのよ」

それは、今年の年明けのことだった。

私と蒼太に佐和子を交えた3人での話し合い。

そこで私は初めて、2人の関係を知らされた。

しかも、佐和子が妊娠していると言うことまで……。

そして、その場で、蒼太は迷うことなく佐和子を選んだ。

これは男の責任だと──。


『ごめんなさいね』

勝ち誇った表情で私を見つめる佐和子の顔を今でも覚えている。

そんな佐和子の隣で、蒼太は私に何度も頭を下げた。

『本当にすまない！　俺とは別れてくれ』

絞り出すような低い声でそう言う蒼太は、私と一度も目を合わせようとはしなかった。