車に乗り込んだソウは、真っ先にエンジンをかけ、それからびしょ濡れになったダウンジャケットを後部座席へ脱ぎ捨てた。

「すぐに暖かくなるからね」

そう言ってシートにもたれかかると、ふぅっと大きく息を吐く。

私がソウの息の上がった横顔をじっと見つめていると、ソウはすぐにその視線に気づいて私に微笑みかけた。

「なあに?」

それはこの4日間見続けてきた、いつもの笑顔だった。

それなのにどうしてだろう?
今は少しだけ、そんなソウが遠く感じる。


「うん……あのね。昨日、彼女と仲直りできたんだ?」

そんな私の言葉で、ソウから笑顔が消えた。

「……シート、少し前にずらしても大丈夫かな?」

ソウは黙ったまま、エアコンの吹き出し窓に手をかざして、その温風が私の方へ向くよう調整してくれた。

それから、

「いいよ、別に。それに……帰りが遅くなったから、送って行っただけだし」

とぶっきらぼうに答えた。


「……今はその話はよそう」


──そして、長い沈黙。


一度だけ、ソウが「どこか行く?」とハンドルを握って尋ねたけれど、
私は「ここでいいよ」と答えた。


私たちはそのまま、黙って雨の音を聞いていた。