その時、ポツポツと冷たい雨が降り始めた。

雨に気づいた通行人たちが、歩道にしゃがみ込んだままの私たちを迷惑そうに避けながら、足早に通り過ぎていく。

「ミナさん、汚れるから立って」

ソウが、呆然としたままの私の腕を掴んで抱き起こしてくれた。

「このままだと濡れちゃうから、とりあえずウーさんのお店に戻ろう」

今、ウーさんのお店には戻りたくない。
私は首を横に振った。

「お願い。放っといて……」

「そんなことできるわけないだろ?」

「いいから、一人にさせて」

ソウの手が、私の頬を軽く叩いた。

「ミナさん、しっかりして!」

目の前に、今まで見たことのない、真剣な目をしたソウの顔があった。

「だったら、この先の駐車場にレンタカー借りたままにしてるから、そこで雨宿りしよう。いいね?」

ソウは私の返事を待たずに、私の肩を抱いて歩き出した。


──歩いている間にも、雨足は激しくなっていく。


それから、どうやって駐車場までたどり着いたのか、よく覚えていない。

ただ記憶にあるのは、ソウにしっかりと掴まれた肩が痛かったことと、頬に打ちつける雨が冷たかったということだけだった。