「待って、ミナさん!」

それは私が車のドアを閉めた直後。
振り返ると、助手席の窓が開いて中からソウが顔を覗かせた。

「ちょっと携帯貸して!」

「……何?」

「いいから、早く貸して!」

身体を助手席側に伸ばして、その左手をまっすぐに窓の外へ差し出すソウ。

そんなソウの勢いに押されて、私は戸惑いながらも、自分の携帯を鞄から取り出してソウの左手に置いた。

「ありがとう」

携帯を受け取ったソウは、手早くキーを押す。

そして。

「これ、俺のケー番だから」

画面には、090で始まる11文字の数字。

「何かあったら、いつでも電話して」


笑って「“何か”なんてないよ」っておどけようとしたけれど、ソウがあまりにも真面目な顔をしていて、何も言えなくなる。

「うん……」

私はソウから携帯を受け取った。

「番号を俺に教えたくなかったら非通知でいいから。俺、絶対、いつでも、電話とるから」

後ろから、車のクラクションが響く。

それは、順番待ちをして、私たちの後ろで待機していた車がしびれを切らした音だった。

「ミナさん、明日の予定は?」

「今日と同じ。17時から21時までバイト」

「だったらバイトの後、ウーさんの店で会おう」

再び、ロータリーにけたたましいクラクションが鳴り響いた。

「じゃあ……行くね」

そう言うと、ソウは何度も何度もこちらを振り返りながら、ロータリーをあとにした。