駅前に戻った時には、すでに陽が傾きはじめていた。

駅周辺は交通量が増え、ロータリーには送迎の車が列を作って陣番待ちをしている。

しばらくその列に並んだ後、ソウはロータリーの空きスペースへ車を進めると、寝たふりを続ける私の肩を軽くゆすった。

「着いたよ、ミナさん」

私は軽く体を起こし、今起きたというフリをする。

「……今、何時?」

「もう16時半を過ぎてる。遅くなったね」

「うん……」

「時間もないし、バイト先まで送ろうか?」

「ううん、ここでいいよ」

私は足元に置いていた鞄を膝の上にのせて、ソウに微笑んだ。

「今日は楽しかったよ。明日の受験、頑張ってね」

「うん」

「それと。彼女と……うまくやるんだよ」

「……そんなんじゃないよ」

それは、ソウにしては珍しい、自信のなさそうな返事だった。

「そんなこと言わないの! 漁港でソウが私に言った言葉、そっくりそのまま返してあげる」

私は、体をドアの方へ向けて言った。

「彼女のこと、まだ好きならもう一度頑張ってみたら?」

だけど、ソウの返事はなかった。

「……じゃあね、ソウ」

助手席のドアをあけて、車を降りる。

その背中にソウの視線を感じると、
……どうしてだろう?
なんだか泣きそうになった。

私は車に背中を向けたまま、ドアを勢いよく閉めた。