それから間もなくのことだ。

「はっ、はっ……はぁーっくしょん!!」
そんな大きなくしゃみをしたのは、ソウだった。

「ほら、やっぱり寒いんでしょ?」

ソウはずっと、盾になって海風から私をガードしてくれていた。

見上げると、ソウの顔は青白く、耳と鼻だけが真っ赤になっていた。

「まだ明日、試験が残ってるんでしょ? こんなとこで風邪でもひいたら大変じゃない」

「うん……そうだね」

ソウは鼻をスン、とすすった。

時計を見るともう13時30分を過ぎていた。
今から帰れば、その後のバイトの時間にもちょうどいい。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか。さっきの話の続きは車の中で聞くよ」

ソウはそう言って防波堤の縁に屈むと、そのままヒラリと下段に飛び降りた。

そして、下から私に片手を差し出す。

「ミナさんも飛び降りて」

「ここから!?」

何度確認しても、下までの高さは1メートル40センチはある。

下に降りたソウの頭は私のほぼ足元にあるし、地面は堅そうなコンクリートだし……。

「無理よ!」

私は下段をのぞき込んだだけで足が震えて、後ずさりした。

「片手じゃ怖い? だったら」

ソウは今度は両手を広げる。
だけど、そういう問題じゃないんだって……。

「怖くないよ、俺がちゃんと支えるから」

「でも……」

「支えきれなくても、ちゃんと俺が下敷きになってあげるから。ミナさんには絶対痛い思いはさせないって」

「だって……」

「ほらっ、勇気出して!」

ソウは、両手を広げて、温かい眼差しで私を見つめた。