「……ていうか…樋口先輩、隣でしたっけ?」
私は、もんもんと電車に乗る時のことを思い出しながら聞いた。
「君が隣のおじさんに迷惑をかけるから、席を交替したんだよ」
「……本当に、申し訳ございませんでした」
「いいよ。おじさんが席座ってたから、ちょっと臭かったけど」
柔らかい笑顔と声音で、ひどいをことをサラッ、という先輩。
「まぁ、でも、寝顔見れたし悪い気はしなかったよ?」
「……。どういう意味ですか、それは」
「君の赤ちゃんの頃の寝顔も見れた感じ」
「訳が分からないですから」
聞いてすぐに私はそう答えた。
だって、本当に訳が分からない。
「ようは、赤ちゃんみたいに健やかで無防備な寝顔だったていうことだよ」
「あんまり俺としては嬉しくないんですが」
無防備な寝顔を見れて悪い気がしないと言うのは、どういうことなのかな、この人。
