でもそう上手くは行かない。
更衣室を出ると、もう中川が来ていた。
端っこで防具を付けている。
いつもと同じ、私の防具が入っている棚の近く…。
どうしよう。いきなりチャンスかもしれない。
私は真っすぐ自分の防具の方へ向かった。
中川はチラ、と私を見たが、気にすることなくまた防具を付ける。
勇気出せ、私…。
自分の防具の前まで来て、くるっと中川のほうに振り返った。
「…あのさっ」
「ん?」
中川は、顔を上げて私をみた。
目が合う。
ドキッ…。
やばい。心臓はれつしそう。
ドキドキドキドキ…。
「…えっとねっ…」
顔が赤くなるのが自分でも分かる。
「あのね…えと、あたしねっ…」
自分が何を言ってるのかよくわかんなくなってきた。
中川はまっすぐ私を見ている。
…怖い、という感覚に襲われた。
「な、何でもない…っ」
「え」
私はものすごいスピードで自分の防具を取って、いつも付けている場所に置いて、更衣室に逃げた。
半分泣きそう。
「…言えた?」
玲がゆっくり私に聞く。
私は首を横に振った。
言えなかった…。
なんで…。
バカだ、私。
せっかくチャンスだったのに…。
振られるのが怖い、なんて。
早苗は明らかに落ち込んだ私を見て、
「大丈夫。次があるよ」
と言ってくれた。
私は頷いた。
でもまだ顔は曇ったまま。
玲はにこ、と笑って頭を撫でてくれた。
少しだけ元気が出て、更衣室から出た。
中川はまたチラッとこっちを見たが、何事も無かったように竹刀を取りにいった。
その日の部活はなんだか元気が出なかった。
私、こんなに弱いなんて思ってなかった。
こんなんで本当に言えるんだろうか…。
