「パソコン、電子レンジに洗濯機、電気スタンド、エアコン…」

 孝輔の読み終えたところを、繰り返す声があった。

 ゆっくりとした女の声。

 サヤだ。

 顔を上げると、また考え込んでいる。

「無理すんな」

 またへこんでいくんではないかと思って、先手を打ってみる。

 資料をしまおうとすると、その手を止められた。

「何か、思い出せそうなんです」

 食い入るような一生懸命な目。

「何か共通点がありそうなのに……」

 じーっと孝輔の手の中の書類を覗き込むものだから、きづいたらサヤの顔がすぐそこだ。

 少し離れていても、彼女の存在はすぐにわかる。

 いつも、何かのスパイスの香りがただよってくるのだ。

 彼女の住んでいるインド料理店そのものに、香りがしみついているのだろう。

 よく灼けた肌も、最近ではあまり見ない。

 不自然な焼け方ではなく、ずっと強い日差しの下で暮らしていた黒さだ。

 孝輔は、どちらかというと色白の女性の方が好きだったが、サヤの肌の色は気にならなかった。

 それどころか、白いブラウスとの対比が鮮やかで──目を奪われる。

「共通点って…」

 スパイスの香りに、あてられたのだろうか。

 言葉を出そうとする自分の呼吸が、少し乱れた気がした。