「右から」

 直樹は急ブレーキをかけ、指定のコンピュータの方へと方向転換。

 その勢いに、背広があおられる。

「3番目!」

 手袋の手を伸ばした。

 刹那。

 ヒュンッ。

 白い影は──消えた。

 何事もなかったかのように、光を取り戻す店内。

 時間は変わらず動いていたというのに、動きを止めていた人々が、再び活動を始める。

 怪しい表情を、みな隠しきれてはいなかったが。

「気配が……消えました」

 サヤは、自分が悪いわけではないのだが、申し訳ない気持ちを拭えなかった。

 いつまでも、そこにとどまってくれる霊ばかりではないのだ。

 それに、もっと早く気づくべきだった。

「孝輔」

 彼は振り返り、サヤではなく弟の方を見る。

 名前を呼ばれた本人は、無造作に端末をしまおうとしていた。

 その唇の端が、にぃっと上がっていく。

 あ。

 サヤの好きな笑顔だった。

 心底嬉しい時の顔。

「ギリギリセーフ…老体にムチ打った甲斐があったな」

 言葉は曲線だったが、彼の声は気持ちを隠しきれていなかった。

 サヤも嬉しくなったので、真似しておんなじように笑ってみる。

 ただ一人、直樹だけはそれに加わらなかった。

「老体とはなんだ! 私は28だぞ!」

 ぜーぜー。

 そういう割には、呼吸が乱れている直樹だった。