「…あ!そうだっ…「瀬戸ー、授業遅れんぞ」


何か思い付いた瀬戸先輩を遮る、瀬戸先輩より低い佐藤先輩の声。


「ちょっと待てって」と言いながら佐藤先輩に引っ張られる瀬戸先輩と、夏穂に腕を組まれるあたしの距離がひらく。



「俺ね、柑橘系と甘い物が組み合わされると嫌いっつったけど、ひとつだけ好きなのあった!」



昨日の帰り、レモンケーキが嫌いって言ってたことだよね。

右腕に絡む夏穂の白い腕をほどくように、瀬戸先輩の方へ近寄る。



「─俺、はちみつレモン好き!!」



「てことで。またね!」と言うと、先輩たちが階段を登る足音が響いた。


「作ってみたら?先輩に!」


その場に立ち尽くしたまま、夏穂の声さえも遠く感じる。


『 ま た ね 』


熱い。…熱いよ、顔が。

この気持ちは、何なのかな。


─ ただ、すごく、瀬戸先輩に会いたい。



「かれん? 授業始まるけど…」

「…行く」


新しい気持ちが芽生えた、

─高校一年、11月のこと。